運送業界の熱中症対策が義務化 - 罰則付き規制で変わる労働安全管理

2024年6月から労働安全衛生規則の改正により、企業の熱中症対策が罰則付きで義務化されました。特に屋外作業や車内での長時間作業が多い運送業界にとって、この法改正は経営に直結する重要な課題となっています。名古屋の運送会社各社も、法令遵守と従業員の安全確保に向けた対応を急いでいます。

義務化された熱中症対策の詳細

対象となる作業条件と罰則

改正労働安全衛生規則では、WBGT28度以上、または気温31度以上の環境で連続1時間以上、または1日4時間を超える作業をする場合に対策が義務化されました。WBGTとは気温と湿度などから算出される「暑さ指数」で、熱中症警戒アラートの基準としても使用されています。

義務化された内容は大きく3つです。①体制整備②手順作成③職場内での周知。これらの対応を怠った場合、企業には6カ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科されます。厚生労働省の資料によると、熱中症による死亡事例103件のうち100件が「初期症状の放置・対応の遅れ」が原因だったことから、重篤化防止のための初期対応体制の整備が求められています。

運送業界の特殊なリスク要因

運送業界は他業界と比較して熱中症リスクが高い環境にあります。トラック運転席での長時間作業、荷物の積み降ろし時の屋外作業、夏場の車内温度上昇など、複合的なリスク要因が存在します。

特に名古屋エリアでは、製造業向けの配送で工場敷地内での荷役作業も多く、アスファルトからの照り返しや建物による風通しの悪化など、より過酷な環境での作業を強いられることも少なくありません。ドライバーの多くが単独作業のため、体調変化の発見が遅れるリスクも高くなっています。

高額賠償判決が示す企業責任の重さ

4800万円超の賠償命令

2024年2月の福岡地裁判決では、海外出張中に従業員が熱中症で死亡したケースで、企業に4800万円超の損害賠償支払いが命じられました。企業側は冷房の効いた休憩室や水分・塩分補給のための軽食を常備するなど一定の対策を講じていたにも関わらず、「十分な措置とは言えない」と判断されました。

裁判所が企業の安全配慮義務として挙げたのは、①作業中の暑さ指数の測定②熱への順化③水・塩分や食事の摂取状況の把握④作業中の巡視⑤体調が優れない場合の作業中止などです。単に設備を整えるだけでなく、個々の従業員の健康状態を継続的に管理することが求められています。

運送業界への示唆

この判決は運送業界にも重要な示唆を与えています。ドライバーが一人で長距離を運転する際、管理者による定期的な安否確認や体調管理がより重要になります。また、荷役作業中の暑さ指数測定や、ドライバーの水分・食事摂取状況の把握など、従来以上に細かな健康管理が必要となります。

国の通達やマニュアルで示されている対応策を企業は把握しておく必要があり、「知らなかった」では済まされない状況になっています。

実践的な熱中症対策

運送業界に適した対策の構築

運送業界での効果的な熱中症対策には、業界特性を踏まえたアプローチが必要です。車両への暑さ指数計の設置、定時連絡による体調確認システム、荷役作業前後の体調チェックリストの運用などが考えられます。

また、荷主企業との協力も重要な要素となります。配送時間の調整により最も暑い時間帯を避ける、荷役作業場所での日陰確保や冷房設備の提供など、物流全体での取り組みが効果的です。

デジタル技術の活用

近年は熱中症予防に関連したサービスも充実しています。AIカメラを使って顔の色味や表情、発汗量から体調変化のリスクを表示する「カオカラ」は、2024年に650件の販売実績があり、2025年は5月末までに約1100件が売れています。

運送業界でも、ドライブレコーダーと連携した体調監視システムや、スマートフォンアプリによる定期的な体調報告システムなど、ITを活用した健康管理が注目されています。

予防重視の安全管理体制

救護から予防への意識転換

改正省令の重心は初期対応などの「救護」にありますが、労災が裁判に発展した場合、企業は「予防」の義務である安全配慮義務を果たしていたかが問われます。「救護の前にある『予防』の義務が重要」と言われています。

具体的には、熱中症予防のための対応手順を書面化し、監督者や作業員が閲覧・確認後にサインをするルール化など、「予防対策を目視や口頭伝達で済ませず、記録に残して周知も確実にすることが大切」です。

継続的な改善体制の構築

厚生労働省は熱中症を予防するための対策要綱などを公表しており、企業はこうした情報を参考に「作業現場における熱中症の発症リスクを下げる」対策を講じる必要があります。

運送業界では、季節や時間帯、配送先の環境に応じたリスク評価を行い、それぞれに対応した予防策を準備することが重要です。また、ドライバーの健康状態や作業環境の記録を継続的に蓄積し、改善につなげる仕組みづくりも必要となります。

Q&A

運送業界で最も注意すべき熱中症リスクは何ですか?

ドライバーの単独作業による体調変化の発見遅れと、荷役作業時の屋外での高温環境への曝露です。定期的な連絡体制と、作業環境の温度管理が重要になります。

義務化された対策を怠った場合の罰則は?

6カ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科される可能性があります。また、労災が発生した場合は高額な損害賠償リスクもあります。

中小運送会社でも対応できる現実的な対策は?

暑さ指数計の設置、定時連絡による体調確認、作業前後のチェックリスト運用など、コストをかけずにできる対策から始めることが重要です。

荷主企業との協力で効果的な対策はありますか?

配送時間の調整、荷役場所での日陰確保、休憩場所の提供などが効果的です。物流全体での取り組みが重要になります。

まとめ

熱中症対策の義務化は、運送業界にとって単なる法令遵守以上の意味を持っています。ドライバーの安全確保はもちろん、企業の社会的責任と経営リスク管理の観点から、積極的な取り組みが求められています。

特に名古屋エリアの運送会社は、製造業向けの配送で高温環境での作業が多いことから、より徹底した対策が必要です。法律で定められた最低限の対応だけでなく、予防重視の安全管理体制を構築することが、長期的な事業継続には不可欠となっています。

今回の法改正を契機に、運送業界全体の安全意識向上と労働環境改善が進むことが期待されます。

早紀NESSの熱中症対策への取り組み

早紀NESSでは、法律の義務化以前から夏場の熱中症対策に積極的に取り組んできました。特に夏の期間中は、全ドライバーに対して毎日2リットルのスポーツドリンクを無料で支給しています。これは単なる水分補給ではなく、塩分補給も含めた総合的な熱中症予防策として実施しています。

また、年1回の安全靴支給により、足元からの熱対策も行っており、荷役作業時の安全確保にも配慮しています。平均年齢32歳という若い組織だからこそ、最新の労働安全衛生法にいち早く対応し、ドライバーの健康管理を経営の重要課題として位置づけています。

法改正を受けて、従来の自主的な取り組みをより体系化し、暑さ指数の測定、定期的な体調確認システム、緊急時の初期対応手順の明文化などを進めています。「美心挑戦」の社訓のもと、ドライバーの安全を何よりも優先し、安心して働ける職場環境の実現に努めています。

「安全と感謝の運び手」として、法令遵守はもちろん、それ以上の安全管理体制を構築し、名古屋の運送業界における安全管理のモデルケースとなることを目指しています。

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