名古屋発、物流の未来を創る - 2024年の危機に挑む運送会社の新戦略
「物流2024年問題」という言葉をご存知でしょうか。運転手の時間外労働規制の強化により、多くの運送会社が対応を迫られています。帝国データバンクによると、2024年度の道路貨物運送業の倒産件数は前年度比増の351件と、リーマン・ショック以来の高水準を記録しました。燃料高騰、人手不足、そして激しい価格競争—この厳しい現実の中で、名古屋の運送業界はどのように生き残りを図るのでしょうか。
名古屋市港区に拠点を置く早紀NESSは、2024年2月に創業したばかりの若い会社です。
業界の課題に真正面から向き合い、新しい解決策を模索する取り組みについてお伝えします。

運送業界が直面する課題
私が見た現場の実態
名古屋市港区で運送業を始めて約1年。この1年で痛感したのは、単なる人手不足という表現では語り切れない、業界全体の構造的な課題です。特に名古屋港周辺では、製造業の物流需要が高く、ドライバー不足が深刻化しています。実際、当社にも「運べる事業者が見つからない」という相談が増えています。
軽油価格は5年で約4割上昇し、車両の修理・更新費用も高騰。こうしたコスト増が収益を圧迫する中、トラック運転手の有効求人倍率は2.71倍(2024年2月時点)と、全産業平均の1.19倍を大きく上回っています。人材確保がこれまで以上に難しくなっているのです。
経営者としての危機感
私は運送業界に入る前、この業界の課題を外部から見ていました。だからこそ気づいた重要なポイント。それは、従来の「長時間労働で乗り切る」という方法が、もはや通用しなくなっているという現実です。特に名古屋のような製造業の集積地では、ジャストインタイム対応の要請も多く、新しい働き方の確立が急務となっています。
運送会社の9割以上が荷主に値上げを要請し、多くの荷主企業が値上げに応じたと聞いています。しかし、「何年も据え置きだった運賃が上がるきっかけにはなったが、原価の上昇には追いついていない」という声も聞かれます。特に下請け構造の末端にある中小企業には、その恩恵が十分に行き渡っていないのが現状です。
早紀NESSの挑戦
適正運賃への取り組み
当社では創業時から、「安値競争には参加しない」という方針を掲げています。その代わり、確実な配送品質と丁寧な荷扱いで、適正な運賃をいただく努力をしています。実際、「音を立てない荷扱い」など、当社独自の品質基準を評価いただき、継続的なお取引につながるケースが増えています。
メディアの報道によると「原価計算ができておらず、運賃や条件の交渉をどんぶり勘定でやっている会社はまだ多い」中、私たちは各コース・各荷物ごとの原価を正確に把握し、透明性のある価格設定を心がけています。これにより、値上げ要請時にも根拠を示した説得力のある交渉が可能になります。
労働環境改革の実践
完全週休2日制の導入や、有給休暇の取得推進など、従来の運送業界では難しいとされてきた働き方改革に挑戦しています。さらに、夏場の熱中症対策として毎日2リットルのスポーツドリンクを支給するなど、細やかな配慮も欠かしません。この取り組みは、若手ドライバーの採用で大きな強みとなっています。
「待遇面を整えて運転手を集められるかどうかで明暗が分かれている」という指摘の通り、当社では労働条件の改善を最優先事項として取り組んでいます。1日の運転時間を適切に管理するだけでなく、休憩場所の確保や荷待ち時間の削減など、総合的な労働環境の改善を図っています。
未来への投資
人材育成への注力
平均年齢33歳という若さが当社の特徴です。未経験者の採用に積極的に取り組み、一人ひとりに寄り添った教育を行っています。特に「バディサポート制度」では、新人一人に対して先輩一人がつき、きめ細かな指導を行っています。この制度もあり、約9割の社員が未経験からスタートしています。
業界全体で「より厚待遇を求めて転職する人が多い」と言われる中、私たちは単に待遇の良さだけでなく、「成長できる環境」にもこだわっています。各種免許・資格の取得支援はもちろん、将来的にはマネジメント層への成長も視野に入れたキャリアパスを提供しています。
福利厚生の充実
将来的には託児所完備の社員寮を建設する計画も進めています。また、10年勤続者への100万円支給制度など、長期的なキャリア形成を支援する制度も整備。これらの取り組みは、単なる人材確保策ではなく、物流業界の未来への投資だと考えています。
特に家庭との両立が難しいと言われる運送業界において、託児所の設置は大きな差別化要素になります。共働き世帯やシングルペアレントも安心して働ける環境を整えることで、多様な人材の確保を目指しています。
私の体験談
「業界未経験の私が、なぜ運送会社を?」とよく聞かれます。でも、だからこそ見えたものがあります。例えば、荷主企業との価格交渉。私は「安さ」ではなく「価値」を提供することにこだわってきました。そして、その価値を丁寧に説明することで、適正な運賃でのお取引が実現できています。
「原価の上昇には追いついていない」という業界の嘆きの中で、私たちは常に「何を提供できるか」という視点で考えています。単に荷物を運ぶだけでなく、在庫管理の提案や配送スケジュールの最適化など、物流コンサルティングの要素も取り入れることで、単純な価格競争から脱却しようとしています。
Q&A
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人材確保は大変ではないですか?
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はい、確かに課題です。しかし、働きやすい環境づくりと適正な待遇を提供することで、応募も増えています。特に「バディサポート制度」による手厚い研修体制は、未経験者の不安を取り除く大きな要素となっています。
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運賃上昇への対応は?
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私たちは適正運賃での取引を心がけています。その分、確実な配送と丁寧な荷扱いで価値を提供し、「安かろう悪かろう」の罠から脱却することを目指しています。原価計算に基づいた透明性のある価格設定も、信頼関係構築に役立っています。
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今後の展望は?
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従業員300人規模の会社を目指しています。その過程で、業界全体の働き方改革にも貢献していきたいと考えています。また、デジタル技術を活用した業務効率化や、環境に配慮したグリーン物流の推進にも力を入れていく予定です。
まとめ
2024年問題により、運送業界の淘汰は今後も続くでしょう。しかし、それは同時に新しい可能性を生み出すチャンスでもあります。私たち早紀NESSは、「自分らしく前向きに生きる」という社是のもと、これからも物流業界の新しいスタンダードづくりに挑戦し続けます。
名古屋という製造業の集積地から始まった私たちの挑戦が、物流業界全体の未来を明るく照らす一助となることを願って。未経験からでも安心してスタートできる環境づくり、適正な運賃での持続可能なビジネスモデル、そして何より「人を大切にする物流」—これからも私たちの理念を胸に、一歩一歩前進していきます。